「香」 「んっ、な、に?」 「アカンサスって花、知ってるか?」 「あっ、」 不意に、熱い吐息と共にあたしの耳を掠めていったその言葉。 その真意を推し量ろうとしたけれど、集中しろと下から僚に一突きされて、結局分からずじまいのまま。 「りょう」 「何だ?」 「さっきの、どういう意味?」 いいように弄ばれ何度も飛ばされたあたしは、けだるい身体を広い胸に預けたまま問うた。 普段なら、「そんな余裕があるならまだまだイケるよな」という展開を恐れて余計な事は言わないんだけど 情事中の睦言とは何か違う含みが確かに感じられて、頭の片隅に引っ掛かったそれがどうしても気になった。 どうせ自分で考えても分かりっこないのだから、本人に聞くのが手っ取り早い。 まあ、そうあっさりと本人が素直に教えてくれるとは思わないけれど。 「別に、深い意味はねぇよ」 「そう・・・」 少し残念。 いや、何を期待していたのか分からないけれど。 「まあ、意味があるとしたらそのまんまだろうな」 「え?」 「花言葉。今となってはもうお前を真っさらな表に帰すことはできねぇし、帰そうとも思わない。死ぬまで離さねぇ。俺と一緒に地獄行き、ってこった」 「やだ、あたしはアニキのいる天国に行きたい。」 「なんだよ、薄情だな」 「冗談よ」 くすくす。 繋がったまま、笑い合う。笑った拍子に与えられた淡い刺激に、あたしのそこはまたぬかるみだした。 「っお前、いきなり締めんな」 眉根を寄せてより一層低い声で僚は呟く。 あたしはこの体勢が好きだ。 何よりよく密着するし、僚の余裕のない顔もいつもよりよく見えるから。 「もし二人で地獄に落ちたとしても、あたしが僚を天国に連れてってあげる」 しっかりと瞳を見据えて、言った。 あたしこそ離してやらない、と言葉に出す代わりに下腹部に力を入れると、ナカの僚がびくりと震えた。 ゆっくりと瞼が臥せられる 長くしっかりとした睫毛が、整った顔にきれいな影を落とした。 「・・・眩しすぎるな」 「何が?」 「・・・」 「ねぇ、?」 「いや、何でもねぇ」 「気になるじゃない!」 「あー、天国に行くんならちゃんと金持ってかなくちゃなあ。一体いくら払えば船渡してくれんだろ。ツケとかきくのかなあ」 「ちょっと、はぐらかさないでよっ」 そっと、大きくて骨張った手があたしの頭を抱え込んだ。 ちゅっと音を立てて離れる唇に、身体の奥がじんとしてしまう。 キスひとつではぐらかされる自分が浅ましくも感じられた。 疼くそこを自ら僚に擦り付けるように動くと、思いの外大きく水音が響く。 「リョウ」 「なんだ、香チャンまたシたくなっちゃった?」 「・・・うん」 「やらしいな」 「呆れた?」 「まさか。むしろ嬉しい」 眩しそうに目が細められる。 唇から伝わる僚の体温に、切なさが込み上げた。 あたしは、不意打ちの言葉に可愛く反応できるほど、器用じゃない。 「じゃ、あっ、二人で天国に行くために男の依頼も請け、てよっ、ね」 「げっ そうくるか」 くすくす。 あたしはこの体勢が好きだ。 何よりよく密着するし、僚のあたしだけに見せる優しい顔がいつもよりよく見えるから。 「まあ、たまには請けてやってもいいぜ」 「絶対よ?」 「そのかわり男の依頼一つ請ける毎にもっこりプラス3な」 「そんな、あたし死んじゃう」 「死なせやしないさ」 「嘘つき」 「信用ねぇのな」 くすくす。 こんな夜も、悪くない。 −−−−−−−− アカンサス 花言葉「離れない結び目」
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