「まーた今年もこの季節がやってきちまったなあ」

心なしかいつも以上に賑わう新宿の街を歩きながら、ふいに僚はそう呟いた

「んー?どうしたの、僚」

はぁーっ

直ぐには答えず、空に向かって白い息を吐き出す。

「今年はホワイトクリスマスになりそうだ」


12月24日。
年間を通しての一大イベントに、街行く人々は誰もが浮足立っている。


「そうね。」
「まあ俺達には関係ねえけどな」
「今年はみんなでクリスマスパーティーって訳にはいかないのよねえ」

海坊主さん達は何やら忙しいようだし、ミック達も今年は二人で過ごすって言っていたし。


「ふーん」
「ここんところ依頼もないし」

果たして年が越せるのかしら、と隣の大男に嫌みったらしく零してやる。
男の依頼さえ受けてくれれば、こんな苦労をしなくてもいいのだが。


「こんだけさみーんだから、家に篭ってりゃいいだろ。金も使わずに済んで一石二鳥!」
「ソウデスネ」

ジト、と睨みつけてみても、男は知らんぷり。
全く、こいつには危機感ってもんがないのか

財布の中身を確認して、ぶるりと身震いをした

「うー、寒い」
「んなこと言っても財布の中身は増えんぞ」
「分かってるわよ!」


ジンジンと冷えた指先が痛む。
こりゃ、本当に年末アルバイトしなきゃだわ・・・



「カ・オ・リちゃんっ」
「な、何よ?気持ち悪いわね」
「ん」


左手が差し延べられる。
なんだなんだと様子を伺ってみるが、こちらからはその表情をよく見ることはできない。

何を企んでいるんだ、コイツは

「なによ」
「だから、ん!おまぁも右手貸せ」
「は?」

いいから、と少々乱暴に右手を奪われた。

「つめてーな」
「・・・ななななななに」
「何っておま、手ぇ繋いだだけだろが」
「ななななななんで」
「いっつも手を繋ぐ恋人たちをうらめしそうに見てる香ちゃんに、リョウちゃん、クリスマス出血大サービス!」



・・・そりゃ、少し憧れてはいたわよ、所謂『恋人つなぎ』ってやつに。

それをあたしと僚が、そう認識した途端、頭に血が上っていくのが分かる。
同時に握る手に熱が集中して、汗が滲んだ。

ああ、落ち着けあたし、僚なんてきっと何とも思ってないんだから!
っていうか、いい歳した大人が、手つないで街中を歩くだなんて、変じゃない?大丈夫?!

「ば、ばっかじゃないの」

名残惜しくはあるが、このまま僚の気まぐれに躍らされるのも気にくわない。

気付かれないようそっと見上げてみるが、依然として表情を読み取ることはできなかった。


ただ――、

離して、と続くはずだった言葉は口に出さずそのまま飲み込んで、代わりに繋がれた手をぎゅっと握り返した。



「僚、耳が真っ赤よ」
「っるせ!」
「へへ。あったかいね」
「家に帰るまでな!今日だけだぞ!」
「わかってるよ。ふふふ」
「くそっ、なんで俺がこんなこと」

ぶつぶつぶつ。
言いながらもしっかりと繋がれたあたし達の手。
少し大股になった僚に合わせるように、小走りで離れないように付いて行った。

家に着く頃には、二人の手は同じ温度になっているだろうか

なっていたら、うれしい。

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