「もっと女らしい格好できねえの?香ちゃん」
「うぎゃあ!」
「・・・朝っぱらから色気ねえなぁ」
いつもとなんら変わりないジーンズとパステルカラーのセーターを身に纏い、キッチンで朝のまどろみに気を抜いていた香。
咄嗟に振り返ると、続けてヒイ、と漏らした。
昨夜も酒の匂いを振り撒きながら帰宅した、今だ上階で深い惰眠を貪っているであろう男。
その張本人に突然背後から声を掛けられたのだから、情けのない声の一つや二つは出てしまうというものだ。
「なななななんであんたがここにいんのよ!」
「なーんでも何もここは俺ん家だけど?」
「だ、だから、気配を消して後ろに来ないでって何回も言ってるでしょ!」
「そうだっけぇー?」
口の端を吊り上げてニヤリと笑う男に、ミニハンマーをお見舞いする。
「・・・朝っぱらから変なこと考えてんじゃないわよっ」
そんなことにもめげず、尻を不躾に撫で回す武骨な手を叩き落とした。
「いってえなぁ。商売道具なんだからガサツに扱わないでくれよ」
「なぁにが商売道具よ。その商売もろくにしないくせに」
「はん、リョウちんモッコリ美女の依頼しか受けないって決めてんのー」
「あんたがそんなだから、毎月あたしが無駄な苦労をしなきゃならないのよ」
「知るか、んなもん」
「今度はぜーったいに男の依頼でも受けてもらいますからね!」
「やだ」
本日二回目のハンマーを繰り出し、一通りの応酬を交わして二人分のマグカップを手にリビングへ移る。
「それにしても、珍しいじゃない」
「あー?」
「あんたがこんなに早く起きてくるなんて」
「ああ」
「朝ご飯食べる?」
「こんな朝っぱらからお前の飯なんぞ食ったら、腹壊しちまう」
「な、なんですって!」
僚お得意の嫌味に、わなわなと肩を怒らせた。
「んだよ。朝っぱらからギャンギャンうるせえなあ」
「全ての根元はあんたよ」
「あっそ。」
「・・・も、もう知らない!」
ガチャン、とカップを置き、勢いよくソファから立ち上がる。
「何処行くんだよ」
強く腕を引かれ、気付けばソファの上に組み敷かれていた。
香は半ば本能的に危険を感じ、僚の胸板を押して逃れようともがくが、この大男の前ではそんな抵抗も虚しく更に圧しかかられてしまう。
「ちょ、ちょっと、」
「どったの、香ちゃん?」
「な、ななななな、何すんのよ!」
「何って・・・ナニを」
「あほかー!離せえー!」
「やーなこった」
「伝言板に依頼を・・・っ、」
「どうせ」
今日もないさ、と言いながら器用に片手でブラのホックを外す。
「ちょっ、と・・・まっ」
「待たない」
「白昼堂々なにを・・・!」
「そのうち気にならなくなる」
欲望の渦巻く漆黒の瞳。
香は息を飲んだ。
その後リビングで為された出来事は、本人達のみぞ知る。
−−−−−−−−
翌日
「はぁ〜・・・。昨日は散々だったわ。まあどうせ依頼なんてきてないんでしょうけど、あああっ!」
「XY、Z!!いやったー!一ヶ月ぶりの依頼よぉー!!これでお腹一杯ご飯が食べられるぅ〜」
XYZ
9/13 午後二時
喫茶ベアーにて待つ
「って、あ、あれ?は、はは・・・確か今日は14日、は、ははは・・・」
「も、もういやー!!うぇーん!」
−−−−−−−−
カオリンご愁傷さま・・・
|