こんなとき、ふと思う。

もし、今あたしがここで事切れたとしても
最後に僚の温もりを感じられたなら、幸せだと。



ひたひたと春の訪れを感じつつある、しかしまだ冬の名残が残る季節に、今日もまたあたしたちはいつもの場所で、いつものように肌を合わせていた。

その‘いつも‘ならベッドから見えるはずの月も、閉め切られたカーテンのおかげで今日は見ることができない。
カーテン一枚を隔てただけで外の喧騒が少しばかり遠のいたように感じるのは、不思議だ。


僅かな光の中、今のあたし達に聞こえるのは、互いの息遣いと、衣擦れの音だけ。


「僚は、さ」
「ん?」
「どんな最期を迎えたい?」

この男にこの質問、普段のあたしなら決してしないだろう。

「んだよ、縁起でもねぇな」
「教えてよ」

とはいえ純粋に興味があった。僚の最期の場面に、ちゃんとあたしが存在しているのか。

「・・・どうでもいいだろ、そんな事」
「よくない。」
「おまぁな」
「あたしは、僚の胸の中で最期を迎えたい」
「おい」
「だから、あたしより先に死ぬんじゃないわよ」

わかったわね、と言った所で鼻の奥がツンとして、堪らず目を閉じた。

僚を困らせていることは、分かっている。
これはただの、思いつきの我が儘だ。



「みすみす死なせるかっての」

ゆっくりと包まれる感覚。僚の息遣いが、よりいっそう近くなる。

「お前を残して俺が先に死ぬこともない」
「そう」
「まあ、何が起こるか分からん世界だからな、絶対はないが」



ああ、やはり。

あたしはまたこう思うのだ。

いつまでもこの熱に抱かれていたいと。

匂いを、息遣いを、感触を、感じていたいと。


一人の男がもたらす幸福に、包まれていたいのだと。

これもただの、我が儘。



どこまでもこの男に甘やかされて、あたしは生きている。




























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