ガタガタ


ガタガタ




いつしかあたしの身体に馴染んだちょっぴり硬いシートも


少し右に身体を傾ければ肩が触れ合うくらい狭い車内も


嗅ぎ馴れた煙草のにおいも


右肩に感じる体温も

時々聞こえる鼻歌も、





「香ィ〜」
「ん?なに、」


「・・・ふっ。間抜けな顔」
「・・・っ、あ、あんた!」
「も一回する?」
「何すんのよいきなり!」
「キス。」


ゆっくり近付いてくる顔も


首に添えられた大きな手も


向けられた優しい視線も


唇で感じる柔らかな感触も、




「あーあ。信号が変わっちまった」




ガタガタ


ガタガタ




くせのかかった前髪をかきわける仕草も。




今度信号に引っ掛かったら、覚えておきなさいよ なんて。




「リョウ」
「あー?、うおっ」
「も一回する?」
「・・・いい度胸してんじゃねえか」




目の前に迫る意地の悪い顔。
きっと今の私も似たような表情してる。




「家に帰ったら満足するまでしてやるよ」
「のぞむところよ」




信号が青に変わる。
荒々しくエンジン音が立ち、車窓から流れ込む風が勢いを増した。


「早く帰んねえとなあ。カオリサマの気が変わんねえうちに」

「ふふ」


心なしかエンジン音が大きくなった。




ガタガタ


ガタガタ




距離を詰めた二人の肩がぶつかる。


家まであとちょっと。

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