華奢な身体を抱き寄せれば
驚いた顔をしたり照れ臭そうな笑みを浮かべてみたり
忙しい奴だ、と笑う。





コーヒーカップ片手にテレビを見ていたら、不意に身体を抱き寄せられた
顔色一つ変えず、あまりにも自然な動作だったので何事かと動揺する。こやつはまた良からぬことを考えているのではないか。
そんなことも、触れた肌から伝わる体温にどうでもよくなってしまった。
知らずのうちに頬が緩む。




『でも本当、そんなに肌が白かったら化粧いらずでしょう?』

下品な笑みを湛えた男性タレントが、最近人気の若手女優に問う。


『そんなことないですよ、ちょっと気を抜くとすぐに日焼けしちゃうので大変です』

そう言って、女優は満面の笑みを顔に貼付けた。


誰もこの女が裏の世界の人間だなんてことは思いもしないだろうな、と先日の出来事を思い出す。
依然ブラウン管の中で笑顔を浮かべる様を見ると、どうやら全く懲りてないらしい。


「なんだかんだ言って、綺麗だったらなんでも許されちゃうのね。世の中ってのは」
「そんなもんかあ〜?」
「そうよ。あーあ、私も一度は言ってみたいものね。『気を使ってないと、すぐに日焼けしちゃうので大変ですぅ』って」
「ふーん」
「普段から全然化粧しないし、肌なんて日焼けし放題な私には無縁だけど。」
「お前だって十二分に白いじゃねぇか」
「そんなことないわよ!美樹さんなんて同じ仕事柄なのに、なんであんなに白いのかしら」
「別に、変わんねえって」
「もう!解ってないわね、女心を」
「あー?」

真白なその頬を朱く染めて、熱弁をふるう愛しいパートナー。


緩む頬もそのままに、テレビの電源を落とした。

「あ、見てたのに」
「いいじゃねえか。冷てぇの、香しゃんてば」


ゆっくりと目を瞑れば、コーヒーの香りと
確かに感じる香の体温。


***

(きみ色 5題) から お題配布元:PATHY/感情




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