夢を見た。

それはとても朧げで。だけどきっとそれは悲しい夢だったと思う。
今更、何を不安になっているのだろう。この前、奥多摩でしっかりと互いの気持ちを確認したというのに。

何に、恐れているのか。


2人の間には心繋がるものがある筈なのに、決定的な何かが、足りない。




「まだ痛むの?」
「あぁ。」

包帯を強く巻きつける。途端に呻き声を上げ、僚は顔を顰めた。


僚の鮮血に染まったジャケットは隠すようにクローゼットの奥に押しやった。
廊下の血痕も、もうない。

それは全て、自分一人でやったことだった。


「香」
「うん?」
「お前は悪くない」
「りょ…っ」
「全ては俺のミスだ。お前は悪くない」
「…っ、そんなことないわ!あたしが悪いのよ!」
「かおり」
「あの時…」
「もう、いいんだ」
「よくないわ!あたしは…っ」

ついに堪えていあたした涙が零れ落ちた。




―いつしかある殺し屋が言った。
僚は私の為に命を落とす。
それが僚と私の宿命。
血塗られたスイーパーにパートナーは必要ない。
僚の優しさは、自らを破滅へ導く。
私は僚から全てを奪う…、と。




***


3日前。
N国のエージェントからの依頼を、私たちは請けた。
冴子さん絡みの依頼だけに私も僚も渋ってはいたが、何しろ冴羽商事の家計は火の車。
提示された額が額だけに、うまく言いくるめられてしまったというところだ。



「単刀直入に言うわ。あなたたちにはN国の大統領のボディーガードをしてほしいの。」
「大統領のボディーガードだぁ?んなめんどくせー」
「僚!一度請けると決めたら真面目にやってよね!」
「僚ちゃんもっこり美女じゃなきゃやだね」
「まぁたそんなことを〜!!」


お約束のやり取りにわなわなと肩を震わせ、香が今にもハンマーを繰り出そうかという時。
見かねた冴子がまあまあ、と牽制に入った。

「で、でもなんでN国の大統領を?」
「それがね、」
言いながら、大判の茶封筒から一枚の紙を取り出す。

「こんなものが大使館に送りつけられたそうよ」

印字された文字は、到底見たこともない文字だった。

「ほう」
「現在捕虜にされている同朋を早急に解放せよ。さもなくば、こちらも強行手段を選ばざるをえない…とね。」
「へえ。で、そいつらがどんな奴等かぐらいは検討ついてんだろ?」
「ええ、もちろん。」
「一体どこのどいつだ?」
「diable…耳にしたことぐらいはあるかしら。」
「・・・これまた最近急激に勢力を伸ばしている巨大組織の連中か」
「な、なんなの、その、えーと…」
「diableはね、主にフランスに起点を置いて動いている組織なの。」
「フランス?」
「そ。組織名を和訳するとね、」

「悪魔、ってか。」

僚が呟く。
相手がどんな奴等だろうと、僚は全く動じない。
それどころか、その瞳には好奇すら感じられる。


いくら海坊主さん直伝のトラップといえど、所詮は素人に毛が生えたようなもの。
背後の殺気を感じとることはできないし、額に当てられたレーザーポインタにさえ気づくことが出来ない。
さらにはシティーハンター唯一の弱点と、お約束のように連れ去られてしまう。
そんな私の所為で、これまで幾度となく僚を危険に到らしめた。
『いつか冴羽はお前の為に命を落とす』
そう遠くない未来、起こりうる事実。
ただ私はひたすら僚の足を引っ張っているだけなのかもしれない。
それならいっそ、居ないほうがマシだ。

…それなのに。

何度も、何度でも、危険をかいくぐってまで僚は助けに来てくれる。

そこまでするのは、かつての相棒の妹だから?
確固たる『責任』として、アニキへのせめてもの情けとして、だから放っておけないのか、

それとも…

しかし、どんなに模索したところで私に僚の考えていることは分かりっこない。


「僚・・・」
「なぁに、単なる巨大麻薬組織さ。でも最近じゃ銃の密売にも手をかけてるって話だぜ?」
「あら、よくご存知で。」
「大丈夫、なの?」
「んあ〜?」



ふと、嫌な予感がした。
途端に背筋がひんやりと冷めていく。

アニキを亡くした、あの日と同じように。

いつしか窓の外には、薄気味の悪い暗雲がたちこめていた。



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書き始めてみたはいいものの、ちゃんと完結するんだろうか・・・






























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