なんだか最近息苦しい。

家事も一段落つき、パートナーも日課のナンパへ出掛けたある昼下がり。
あたしはひとり家を出た。
向かう先は伝言板でも、キャッツでもない。あらかじめ、先日美樹さんに聞いておいた下着屋だ。

考えてみれば、家計的にも、何よりまだ全然使えるのだからと、しばらく新調していなかった。
けれど最近になって今までピッタリだったものが息苦しく感じるようになり、外した時に跡が残るようになってしまったのだ。
これではもし僚とそういうコトになった時(といってもほぼ毎日なのだが)恥ずかしい。
最初は太ったのかと思って体重計に乗ってみたけれど、体重は増えるどころか少し減っていたので、仕方なく新調することを決めた。
タイミングよく先日依頼を受けたばかりで若干の余裕もあるので、こうしてあたしはひとりで来たというわけ。


「うわぁ・・・」

小さな店舗に、整然と並ぶ下着。
全体的に上品で作りもしっかりしていて、価格もそれほど高くはない。さすが美樹さん、こんなところまで知ってるなんて。
しばらく店内を見て回っていると、女性店員に声を掛けられた。

「何かお探しですか?」
「なんか、最近ちょっと合わなくなったみたいで」
「それでしたら一度採寸してみましょう。」

試着室で着ていたカットソーを脱がされ、採寸をし、あれやこれやと新しいサイズの下着を試着させられて、ようやく白のレースとシンプルな水色の2セットを選んだ。 お会計をしようとレジへ向かうと、店の奥の方に、それはそれは刺激の強い下着たちが静かに主張をしていた。
あたしが未だに穿いているパンダちゃんやイチゴパンツとは、比べものにならない。
きっと冴子さんなんかが穿いたら似合うんだろうなあ・・・
それを自分に重ねてみたけれどちっとも似合わないし、何よりも恥ずかしさが募って考えるのをやめた。
あたしなんかが着けたところで、脱がされた時あいつに「おまぁみたいな子供が着けたって全然だめ」と嫌みを言われるのがオチだ。
さすがにそれはちょっと虚しいわ

(実際、僚はこういうのが好みなのかしら・・・?)


「以上でよろしいですか?」
「あっはい」

「あとこれもな」

びくぅっ
気を抜いていたのでひどく驚いてしまった。
背後から丸太のような太い腕が伸びてきて、先程あたしが見ていた黒いレースの下着がレジに置かれる。

背中に感じる大きな熱も、聞き慣れた声も、嗅ぎ馴れたにおいも、すべて間違いなく僚のものだった。


「い、いえ、これは結構です」
「いんや、この3つで宜しくお姉さん」
「ばっ!あんたねぇ!こんなとこに入ってきて恥ずかしくないわけ?」
「ぜぇんぜん」

はっ、
言ってから気付いた。
こいつは依頼人にも平然と下着を勧めるやつだった・・・
だいたいこいつは何故ここにいるのか





結局あたしは白レースと、水色と、そして黒の下着を購入した。
家路、一歩後ろを歩く男は振り返らずとも分かるほど浮足立っていて、ニヤニヤと気色が悪く、辛抱できずに振り返りざまハンマーを振るうがいとも簡単にそれを避けた僚は、あたしを引き寄せて一言呟いた。


「ばばば!ばっかじゃないの!今日はあんた、外に飲みにいきなさいよね!」
「昨日カオリさまにこれ以上ツケを増やすなと言われたので、今日は大人しくしてまーす」

いつもはあたしの言うことなんか聞かないくせに。
大体その目、あんたが大人しく眠るわけないわ!ぶるる、寒気がする。


「あー、今夜はたのしみだ」


くらり。
その一言に眩暈を覚えた。


その晩。
あたしがお風呂から上がると用意しておいたパンダちゃんが無くなっていて、ご丁寧にタグが外された真新しい黒のセットが代わりに置かれていた。
こんなことだったら昼間ちゃんと昼寝をしておくんだった、と少し後悔。












−−−−−−−−

「しっかしお前、2カップもアップしてたなんてこれも俺のおかげだよな〜」
うんうん、と偉そうに頷く男を簀巻きにして放り投げたのは、朝日が昇った頃だった。

***

きっとカオリンがそわそわしているのに気付いて、後を付けていたにちがいない。このストーカーめ!(笑)





























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