「あ、」

クローゼットの奥の方。
なんとなく見ることも少なくなって、知らぬ間に奥へと追いやられてしまっていたアルバムを見付けた。


4.懐かしむ


「アハハ、こんなこともあったあった!」

ベソかきながらおでこをペンで黒く塗り潰しているあたし

「ちっちゃいなぁ〜」

これは、初めてあたしがハンマーを持った時の写真。
あの頃、近所の―名前は忘れてしまったけれど―気弱な男の子を、いじめっ子から守ってたっけ。
当時のあたしは、慕われ頼りにされることがとても嬉しかった。


「若い!」

気付けばあっという間にアルバムの半分を過ぎていた。写真に写る自分はすっかり成長している。

高校の時に絵里子と撮った、修学旅行の思い出。
熟睡中のアニキをこっそり撮った、イラズラ写真。

そして、


「なぁにさっきから騒いでんだよ」
「・・・っ僚!いきなり来るからビックリしたじゃない!」
「んだー?アルバムじゃねえか」
「片付けしてたらたまたま見付けたのよ。」

・・・そして、
あたしとアニキと僚が写った、世界でたった一枚だけの、写真。

いつ、どんな理由で撮ったかは覚えていないけれど
写真の中の三人は、皆笑っていた。


「懐かしいな」
「・・・・・・うん」

急に寂しさを覚えて、鼻の奥がつんとする。
静かにあたしの横へ腰を下ろした僚に、頭をくしゃりとされた。

「・・・あっという間だね、時が経つのは」
「そうだな」

その写真を最後に、一枚分のスペースを残してアルバムは終わっていた。
―いちまいぶん、・・・そこであることを思いついたあたしは熱いものが零れてしまわないようにしながら、隣の男に向き合った。

「ねぇ、僚」
「ん?」
「お願いがあるの」
「何だ?」
「一枚だけ・・・、一枚だけでいいから、一緒に撮りたい」
「何だよ急に」
「お願い。僚と一緒に写った写真が欲しいの」


きっといやだと言われるだろう。
今までだってまともに写真を撮らせてもらえたことはない。
当然今回だって、適当にはぐらかされてお仕舞いなんだろうな、と思っていたのだけれど。


「・・・・・・さっさとカメラ持ってこいよ」

あたしの気持ちを知ってか知らずか、僚の口から出たのは肯定の言葉。
思わぬ返事に、少し反応が遅れる。

「なんだよ、撮らねぇのか?」
「ううん。ありがとう、僚」




暫くして部屋に響いた一度のシャッター音。


後日、あたしは再びそのアルバムを開いて最後の一枚を貼り終えると、誰にもみつからないようにそっとクローゼットの奥に戻した。

しょうがねぇ奴だな、と呆れながら優しい表情をする僚が脳裏に過ぎった。












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原作でカオリンが持っていた僚の写真。ただしそれはおちゃらけた表情。
せめて一枚くらい、まともな写真を撮らせてあげなきゃね。






























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