あたしはリョウが好きだ。それはもうとてつもなく。どうしようもないくらいに。
リョウはいつまで経ってもあたしに対して優しくはないけれど―。
嘘。泣きたくなるほど優しい。時折あたしがその優しさに押しつぶされそうになるほどの優しさを、無条件にあたしに与えてくれる。あたしが勝手にその優しさに苦しむようなことがあると、あいつはまた一人自分を責める。悪いのはみなあたしなのに。優しすぎる。聡すぎる。

自分がリョウに与えられるものなんてそう多くはないから、考えうることを全て精一杯すれば、そのお返しだとまたあたしにたくさん与える。見返りなど求めず、ただあたしが自分勝手に押し付ける行為にも。
前に一度、それを望んでやってることじゃない、と言ったら困った顔をされた。

不器用すぎるのだ。
リョウもあたしも。



夢現、ひとり納得したところで、ゆさゆさと揺り起こされた。
中心からじわりと快感が走る

そうだ、あたし途中で気を失ってしまったんだ

「おかえり」
「んっ、ただいま」

あたしが目を覚ましたのを確認して、僚はゆるゆると律動を再開した。ニヤリと無邪気で意地の悪い顔。あたしの大好きな顔。
円を描くように刺激をされて、早くも今日何度目かの絶頂が近いことを感じる。

「や、だめ、また...」
「何度でも起こしてやるから素直にイっとけ」
「あ、まって、ほんとに...、っ」

収縮のあと、全身から力が抜ける。意識に靄がかかる。間髪入れずにまた再びゆらゆらと引き戻される。そこに激しさはない。
ただただ甘い。

「りょう、もう...や...」

動く身体を止めようと伸ばした両手は僚の大きくて熱い手に手首を掴まれて、あっというまにシーツへ縫いとめられてしまった。

「...っ、」
「や、あっ!」

突然鋭くなる刺激。自由を拘束されたあたしはその衝撃をただただ受け止めるしかなかった。
僚が体勢を変える。厚い胸板に圧しかかられる。熱の深度が増す。
すぐ鼻先に艶々とした黒髪が幾筋か落ち、そこからまた汗が滴り落ちた。


幾度も繰り返してきたこの行為だって、毎回あたしばかり気持ちよくなって満たされる。結局最後までリョウはあたしに合わせている気がする。あたしのことばかり考えている気がする。こんなところでもリョウに思うように快感を与えられないなんて。悔しい。寂しい。
このときくらい、好きにしてくれていいのに。女の身体はあたしがリョウに与えられる数少ないもののうちのひとつだから。


「ばぁか」

知らず知らずのうちに声に出してしまっていたのだろうか

出会った頃から現在も時折見せる、あたしを子供扱いするような。
仕方ないな、なんて呆れた、優しい声が聞こえてきそうな。
そんな、兄のような父のようなカオ。
しかしそれも一瞬で消えてしまった。見間違いだったのではないかと思うほどにあっけなく。
次の瞬間にはその瞳の奥がギラつくのに気付いてしまった。


「なぁ、香」
「なに、?」
「気持ちいいか?」
「なっ、」

まるで今日の晩飯はなんだ、と尋ねるようにさらりと。けれどしっかりと動きを止めずにあたしを追い詰めながら。

ヨくないわけがない、とは恥ずかしくて声には出せないけれど。
今日だってこれまでに何度飛ばされたことか。全身が粟立って、些細な刺激も大きな快感を呼び起こす。とっくに身体はくたくたなのに、僚の気が済むまで止むことのない感覚。頭に霞がかかって、うまく考えることができない。声だってとっくに嗄れてしまった。
だから、答える代わりに同じ質問を投げかけた。僚も自分と同じくらい、気持ちよくなってたらいいのにな、と願望半分で。


「 」

何かを言おうとした僚は、けれど何も言わずにかすかな吐息だけを吐き出して、結局そのまま口を閉ざしてしまった。
一体何を言おうとしたのだろう。不安が胸に広がる。もしかしたら消極的なこと・・・例えば今までの女に比べたらそこまで気持ちがよくない、とか―?

「こら、おまぁはまた見当違いな事考えてるだろ」

眉間を人差し指でぐいぐいと押される。
案の定顔にでてしまっていたようだ。つくづく隠し事はできない。僚は全てお見通し。

痛いやめてなにすんのよ!
あぁ〜?お前が悪いんだろォ〜?

他愛もないことでしばらくもみ合って(言っておくがしっかり繋がったままだ、あたしが言うのもなんだがなんて色気のない)、どちらともなくキスして、僚が笑いながら子供のように頬を寄せて、でも伸びかけのヒゲが痛くて、またじゃれ合いが始まって、またどちらからともなくおでこに、鼻に、まぶたに、頬に、唇にキスをして。

いつの間にか問いの答えをはぐらかされた気がしなくもないが、最後に僚が見せたあの表情を、答えとして受け取ることにした。
何年も一緒に生活してきて、いくらポーカーフェイスで解らない男相手といえど、そのくらいの心の機微は読めるようになったはずだ(自惚れかもしれないけれど)。

だから、とりあえず、今日のところは、安心して眠ろう。
穏やかで、幸せそうな、目を細めた愛する男の顔を思い出しながら。







































inserted by FC2 system inserted by FC2 system