ふと寒さに目を覚ますと隣にあいつは居なくて
右手をシーツに滑らせてみても其処に気配を感じとる事はできなかった。
「(出ていって随分と経つのね)」
けれども残り香は強く残るベッドの上で、ひとり膝を抱え。
いち に さん
枕元の黒く癖がかった髪の毛を摘まみ上げる
し ご ろく
あいつ、抜け毛が酷いわね。
そのうち禿げちゃうわよ、
そして額の傷を思い浮かべて何故か胸が苦しくなって
あいつが禿げ頭のヨボヨボお爺ちゃんになるまで一緒にいてやるんだから、
なんて世間知らずの少女のような夢を見て
(アイツだけは私の目が黒いうちは絶対に死なせないんだから、なんてね。)
「(はやく、かえってきて)」
いや、ちがう。
「(どうか、なにごともなく)」
また胸が苦しくなって、
深呼吸をするために目を閉じる。
すう、と深く息を吸い込んだ所で静かに扉が開いて
鼻腔一杯にあいつのにおいが流込んできた。
おかえり
そう言って目を開けるとちょっと驚いたようなカオ。
ただいま
大人しく寝ていればいいものを、とジャケットを脱いでシャワーに行こうとする男を引き留めてベッドに無理矢理押し倒してやった。
今度は目の前に余裕たっぷりのニヒルなカオ。
目の奥をギラつかせて。
午前三時の出来事。
--------------------
拍手お礼小話ログ
|